医薬品EC導入完全ガイド
近年、インターネットの普及に伴い、医薬品のオンライン販売、いわゆる医薬品ECが注目を集めています。医薬品ECは、消費者にとって利便性が高く、営業時間や場所にとらわれずに医薬品を購入できるというメリットがあります。高齢化社会の進展や、ライフスタイルの多様化が進む中で、医薬品ECはますます需要が高まると予想されます。
また、販売する側にとっても、新たな顧客層の獲得や販売機会の拡大、業務効率化によるコスト削減など、多くのメリットをもたらします。しかし、医薬品は人の健康に直接関わるものであるため、その販売には薬機法に基づく厳しい規制が設けられています。そのため、医薬品ECを導入するには、法規制を遵守し、適切な体制を整備することが不可欠です。
本記事では、医薬品EC導入に必要な許可、設備要件、システム連携、薬剤師の業務、物流運用などを解説します。これから医薬品EC導入を検討している事業者様にとって、本記事が役立つことを願っています。
必要な許可(医薬品店舗販売業、特定販売届出)
医薬品を販売するためには、医薬品医療機器等法(薬機法)に基づく許可が必要です。医薬品ECの場合、実店舗での販売と同様に「医薬品店舗販売業許可」を取得する必要があり、インターネット等で医薬品を販売する場合には、都道府県知事への「特定販売の届出」が必須となります。
これらの許可は、医薬品の販売を厳格に管理し、消費者の安全を守るために設けられています。
医薬品店舗販売業許可
医薬品店舗販売業許可を取得するには、要件を満たす必要があります。後のセクションで具体的に見ていきますが、以下の要件を満たす必要があります。
● 店舗の構造設備基準
● 人員基準
特定販売の届出
(特定販売とは)
医薬品を販売授与する店舗以外の場所にいる人に対し、一般医薬品を販売又は授与する事です。
特定販売を行うには、店舗があるエリアを管轄する保健所に、特手販売の届出を提出する必要があります。特定販売の届出は、下記の情報が必要になります。
・WEBページに表示する店舗名称
例:〇○○○オンラインストア、○○○○ショップ など
・使用する通信手段(販売手段)
例:インターネット、電話、メール、カタログ など
・主たるホームページアドレス
ホームページのトップページやランディングページのURL。
・特定販売を行う時間
・特定販売のみを行う時間※有る場合のみ。
実店舗が稼働していない時間帯に、特定販売のみ行う場合、営業をする時間。
・特定販売を監督するための設備※特定販売を行う時間がある場合のみ。
又、下記の資料も別で用意し提出する必要があります。
・主たるWEBページの構成概要(WEBページを印刷して提出)
・店舗の管理及び運営に関する事項
・要指導医薬品及び一般用医薬品の販売に関する制度に関する事項
・店舗の外観の写真
・医薬品の陳列の状況を示す写真
尚、販売開始後にHPの内容を変更したい場合には、事前に保健所への相談と変更届の提出が必要となります。
店舗の要件と設備
医薬品ECを運営するための店舗は、医薬品の品質を保持し、衛生的な環境を維持できる構造であることが求められます。
一例として、東京都の場合は以下の基準が設けられています。
構造設備基準
●面積: 13.2 平方メートル以上
●採光・照明: 医薬品を通常陳列し、又は交付する場所では60ルクス以上の明るさを有する。
●換気: 十分な換気を確保し、清潔な状態を保つ。
●区画:
居住スペースや不潔な場所と明確に区別されていること。
医薬品以外の物を取り扱う場合は、医薬品と明確に区別すること。
第一類医薬品、指定第二類医薬品、第二類医薬品、第三類医薬品をそれぞれ区画し、他の医薬品と混在させないこと。第一類医薬品については、購入者が直接手の触れられない施錠ができる陳列設備に保管する。
医薬品を購入し、又は譲り受けようとする者が容易に出入りできる構造であり、店舗であることがその外観から明らかであること。
人員基準
医薬品ECを運営する店舗において、管理者の設置が義務付けられています。
又、店舗業務従事者の要件も下記の通りとなります。
管理薬剤師:1店舗につき1名を設置する必要があります。他店舗との兼任はできません。
勤務薬剤師:管理薬剤師の補佐として設置することができます。管理薬剤師が不在の場合、勤務薬剤師が問診や情報提供、販売を行います。勤務薬剤師は、他店舗の業務も対応できます。
登録販売者:第二類医薬品や第三類医薬品のみを販売する店舗であれば、登録販売者が店舗の管理者となることができます。但し、登録販売者として業務に従事し、以下の要件を満たす必要があります。
・従事期間の合計が過去5年間のうち通算して2年以上である者
・従事期間の合計が過去5年間のうち通算して1年以上であり、法令で定める研修を修了した者
・従事期間が通算して1年以上であり、過去に店舗管理者又は区域管理者として業務に従事した経験のある者
・店舗管理者としての業務の経験がない場合であっても従事期間が通算して5年以上であり、かつ、体制省令に規定する研修を通算して5年以上受講した者。
HPへの掲載内容、WMSとのシステム連携
HPへの掲載内容
医薬品ECサイトには、東京都では以下の情報を掲載することが義務付けられています。
薬局・薬店の管理・運営関係
1 実店舗の写真
2 許可区分(薬局又は店舗販売業)
3 許可証の記載事項(開設者氏名、店舗名、所在地、所轄自治体等)
4 薬局・店舗の管理者氏名
5 当該店舗に勤務する薬剤師・登録販売者の別、氏名、担当業務等
6 現在勤務中の薬剤師・登録販売者の別、氏名
7 取り扱う一般用医薬品の区分
8 勤務者の名札等による区別に関する説明
9 注文のみの受付時間がある場合にはその時間
10 店舗の開店時間とネットの販売時間が異なる場合は、それぞれの時間帯
11 通常相談時及び緊急時の連絡先
要指導医薬品・一般用医薬品の販売制度関係
1 要指導・第1類から第3類の定義及び解説
2 要指導・第1類から第3類の表示や情報提供に関する解説
3 指定第2類の販売サイト上の表示等の解説及び禁忌の確認・専門家への相談を促す表示
4 一般用医薬品の販売サイト上の表示の解説
5 要指導医薬品・一般用医薬品の陳列の解説
6 副作用被害救済制度の解説
7 販売記録作成に当たっての個人情報利用目的
医薬品の表示関係
1 店舗での陳列の状況が分かる写真を表示
2 リスク区分別の表示方法を確保
3 サイト内検索の結果を、各医薬品のリスク区分についてわかりやすく表示すること
4 医薬品の使用期限
WMS(倉庫管理システム)について
WMSの導入の目的は、在庫管理や入出荷情報の管理、ピッキングリストや納品書の出力等ありますが、医薬品ECに関連したところでは、以下のポイントがあります。
API連携:基幹システムや受注システムとAPI連携をすることで、業務を効率化させます。CSVデータの取り込みでも可能ですが、データの受け渡し、ファイル変換、取り込みと手間がかかってしまいます。また、データ作成に伴うリスクも発生します。API連携なら決まった時間にボタンを一つ押すだけでデータの取り込みが完了しますので、非常に効率的です。尚、フェイバリットのWMSは様々なシステムとの連携実績がありますので、必要以上に時間をかけず稼働させることが可能です。
第1類医薬品は、購入者に対し問診が必要になります。ECサイトに問診票のリストを設けて状況を確認し、薬剤師が問題無いことを確認した購入者のみ受注データを作成してAPI連携するという事も必要になります。
出荷済みのデータをAPI連携で受注システムに送ることもできます。ショッピファイを例にしますと、在庫情報を連携しておけば、製品が欠品してしまった場合、製品購入画面に欠品の表示がされたり、欠品していた製品が入庫した際は、入庫したことをエンドユーザーに通知することもできるようになります。
ロット番号、使用期限の管理: ロット番号(またはシリアル番号)及び使用期限の管理が可能で、入出荷情報と紐づけて管理します。いつ、誰に、どのロット番号の製品を出荷したか調べることが出来ます。WMSからはCSVデータで出力することもできますので、対象のロット番号の出荷先一覧等はすぐに作成できます。
使用期限管理:WMSで使用期限を管理しておくことで、指定した使用期限までの日数を切ると出荷不可となり引き当てをかけないことも可能です。機械的に制御することで誤って出荷されることを防止します。また、入荷した段階で使用期限が切れていたとしても引き当て不可のステータスで入庫しますので、当然出荷されません。
OCR機能の活用:入出荷検査において、通常バーコードを利用する場合はJANコードとなります。JANコードはバーコードリーダーを使用して製品情報の照合を行いますが、ロット番号や使用期限の情報は入っておりません。その為、引き当てされたロット番号と製品の照合は目視となってしまいます。フェイバリットではOCRリーダーを活用し、WMSで検品を行うことが可能です。これにより、先述のトレーサビリティーが確固たるものとなり、品質の高い物流が実現出来ます。
薬剤師の業務と電話相談への対応
医薬品ECにおける薬剤師の主な業務は以下の通りです。
購入者(使用者)の状態確認: 医薬品の販売前に、購入者(使用者)の性別、年齢、副作用歴の有無、持病の有無、医療機関の受診状況、女性の場合は妊娠の有無など現在服用中の薬などを確認し販売の可否を判断します。第一類医薬品については、服薬指導を行う事が薬機法で義務付けられています。患者が薬を正しく理解し、安全に服用できるよう、丁寧な説明が求められます。
オンラインや電話相談対応: 消費者からの医薬品に関する質問や相談に、電話、メール、チャットなどで対応。 相談内容は、医薬品の用法用量、副作用、相互作用、保管方法など多岐にわたります。
副作用情報の収集と対応: 消費者から副作用情報を収集し、必要に応じて医薬品医療機器総合機構に報告します。 副作用の症状や対処法などについて、消費者に適切な情報を提供することも大切な業務です。
記録の保管
薬機法上、第一類医薬品は販売記録を作成し、2年間保管することが義務づけられています。尚、第二類と第三類医薬品の販売記録は努力義務となっています。
記録しておく内容は以下の通りです。
・販売した医薬品の品名
・販売数量
・販売(授与)日時 ※物流では出荷した日
・購入者が薬剤師からの情報提供内容に理解した旨の記録
・情報提供を行った薬剤師の氏名
・販売授与をした薬剤師の氏名
※購入者の連絡先情報記録は努力義務となっています。
電話相談への対応
医薬品ECでは、電話相談窓口を設置することが薬機法で義務付けられています。
電話相談窓口では、薬剤師が消費者の相談に対応します。相談内容は、医薬品の用法用量、副作用、相互作用など多岐にわたりますが、消費者が安心して医薬品を使用できるよう、適切な情報を提供する重要な役割を担っています。
その他: 医薬品の品質管理、店舗の環境管理、在庫管理など。
物流現場の運用について
品質管理
医薬品EC事業を成功させるためには、厳格な品質管理体制の構築が不可欠です。
定期的な品質監査を実施することで、継続的な品質維持を図ることが目的。
湿度管理、温度管理、破損防止を徹底して行いましょう。
体制の整備
医薬品の物流体制には、通常の物流以上に高度な要件が求められます。保管・在庫管理においては、厳密な温度管理が可能な専用の保管環境を整備し、セキュリティとペストコントロールを行う必要があります。
配送面では、全国をカバーする配送網の確保に加え、緊急時にも対応可能な体制を整備することが重要です。特に温度管理が必要な医薬品については、配送時の温度管理も確実に行う必要があります。
まとめ:医薬品EC事業成功のポイント
医薬品ECは、消費者にとって利便性が高く、薬局側にとっても新たなビジネスチャンスとなる可能性を秘めています。しかし、医薬品ECを導入するには、薬機法を遵守し、適切な体制を整備することが不可欠です。
本記事では、医薬品EC導入に必要な許可、店舗要件、システム連携、薬剤師の業務、物流運用、セキュリティ対策など、多岐にわたる側面を解説しました。
医薬品ECは、今後もますます発展していくことが予想されます。オンライン診療の普及や、AIを活用した服薬指導など、新たな技術やサービスの導入も進んでおり、高齢化社会の進展や、ライフスタイルの多様化に伴い、医薬品ECの需要はますます高まると考えられます。
当社では、医薬品物流を行っている実績と最新のテクノロジーを組み合わせたソリューションを提供しています。医薬品EC事業の立ち上げや運営について、お悩みの方は、ぜひご相談ください。